水銀の環境への排出は、天然の産出源として地殻からの火山ガスの噴出、火山活動などが考えられますが、人間の生産活動、化石燃料の燃焼、金属硫化鉱石の精錬、金など貴金属元素の精錬、セメントの生産及び廃物の焼却による環境への排出もあるといわれています。
水銀は、金属と混和しやすい性質があり、アマルガムと呼ばれる液状の合金を生成します。この性質を利用したのが、歯の充填に用いられる歯科用水銀アマルガムで、合金粉末(銀・錫・銅・亜鉛)と1:1に混合されるので大量の水銀を含有していました。現在では水銀アマルガムは使用されておりませんが、過去にアマルガムを使用した場合の水銀の溶出が問題となる場合があります。また、現在でも体温計、蛍光灯、水銀灯の発光体や朱肉に用いられています。
一般の人の水銀の汚染は、主として食事によるものと考えられ、まれに水銀体温計の破損による金属水銀汚染や蛍光灯の破損による無機水銀汚染もあるといわれています。
海水、湖水に熔け込んだ無機水銀は、微生物の作用でメチル化され、メチル水銀などの有機水銀に変化し、プランクトンがこれらの微生物を捕食してさらに小型の魚類、大型の魚類やイルカなどの哺乳類に至る食物連鎖の中で濃縮され、最終的に人に蓄積すると考えられています。水銀及びその化合物は、その形態によって毒性が異なり、脳に蓄積しやすく、神経障害を起こす恐れがあるといわれ、またメチル水銀などの有機水銀化合物は、無機水銀化合物に比べて毒性が強いとされます。メチル水銀は神経細胞中のタンパク質の構造を変えることによって、神経細胞を変性、壊死させると考えられています。
経口摂取されたメチル水銀(有機水銀)は、消化管から95~100%が吸収されます。その他、蒸気となったメチル水銀は、80%が肺から吸収されるといわれています。
吸収された後のメチル水銀は、SH基に対する親和性が高いため、システインやグルタチオンのようなイオウ(S)を含有するアミノ酸に結合すると考えられています。システイン-メチル水銀複合体は生体の中性アミノ酸輸送系によって血液-脳関門を越えて脳に輸送されます。このことが、強い中枢神経系への毒性を示す理由の一つと考えられています。
昭和48年に厚生省は、水銀についての魚介類の暫定的規制値を総水銀が0.4ppmを超えない濃度、メチル水銀が0.3ppmを超えない濃度と規制いたしました。ただし、マグロ類(マグロ、カジキ及びカツオ)、深海性魚介類など(メヌケ類、キンメダイ、ギンダラ、ベニズワイガニ、エッチュウバイガイ及びサメ類)及び河川産魚介類(湖沼産の魚介類を含まない)については、これらの魚種が集中的に食される魚種ではない、大量の流通魚ではない、含有している水銀は天然に由来するものである、摂取量の実態からみて健康被害を生ずるおそれはないものと考えられたことなどにより適用外となっています。
その後、平成13年、14年に魚介類に含まれる水銀の含有量調査が行われた結果と、現在の魚介類の摂取状況などをふまえて、「妊婦への魚介類の摂食と水銀に関する注意事項」として下記の目安が設定されました。
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