必須ミネラル

ナトリウム
人の体液は、細胞外液と細胞内液に大別されます。細胞外液は主として血漿と組織間液からなっていますが、胸腔や腹腔などの体腔液、結合組織や骨に含まれている水分も細胞外液を構成しているといわれています。体液には電解質が含まれていますが、細胞外液の電解質のうち陽イオンではナトリウムイオンが総陽イオンの90%以上を占めています。

ナトリウムは、飲食物から主として食塩(塩化ナトリウム)の形で摂取されます。その他の摂取源としては、ベーキングパウダーに含まれる重炭酸ナトリウム、防腐剤に含まれる硝酸ナトリウムや硫酸ナトリウム、化学調味料に含まれるグルタミン酸ナトリウムなどが考えれれますが、食塩摂取量に比較すると無視できる程度であるといわれています。ナトリウムは複雑で巧みな調節機構により調節されているので、腎機能が良好な場合は欠乏症を起こすことはないといわれていますが、急激な下痢や嘔吐は、血清ナトリウムや体内貯蔵のナトリウムの低下を招くことがあります。ナトリウムの急速な減少では、錯乱、昏睡、痙攣などが起こる場合があり、ナトリウム摂取量が血圧の変動や高血圧に関係しているといわれています。食塩の摂取を抑えた状態を続けると有意に高血圧の発生率が低下するともいわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すもとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
ナトリウムの成人の推定平均必要量は、通常の食事では食塩摂取量が1.5g/日を下回ることはないといわれており、さらに高血圧並びにがんとナトリウム(食塩)摂取との関連を検討した疫学研究、最近の日本人におけるナトリウム(食塩)摂取量の推移、欧米を中心とした諸外国における食塩摂取制限目標値などを参考にして目標量が設定されています。

平成20年の国民健康・栄養調査によるとナトリウムの摂取量は、男性が平均11.4g/日(食塩相当量)、女性は平均9.8g/日(食塩相当量)と報告されており、推定平均必要量や目安量、目標量よりも高い値で、ナトリウムが摂取過剰であることを示しています。日本人は昔からナトリウム(食塩)を多く含む調味料として醤油や味噌を使用しているので、ナトリウムの過剰摂取に注意する必要があります。


摂取されたナトリウムは、小腸で完全に吸収され、皮膚、糞便、尿を経由して排泄されます。摂取されたナトリウムの90%以上は腎臓経由で排泄され、腎臓の糸球体でろ過された量の70%が近位尿細管で再吸収されます。ナトリウムの再吸収の調節は、中枢機能、ホルモン系、交感神経系及び腎臓内機構により複雑ではあるが巧みに調節されています。
カリウム
カリウムは細胞内の浸透圧の維持、細胞内の酸塩基平衡の調節、筋肉の伸縮、糖代謝などの重要な役割を担っています。カリウムの摂取不足が高血圧のリスクを高め、逆にカリウムの高摂取で血圧が低下するという研究などで栄養上の重要性が明確になっています。生体内のカリウムは細胞内に最も多い陽イオン電解質です。

カリウムは、リン酸と結合し、あるいはタンパク質と結合して存在し、海藻類、豆類、いも類、穀類、肉類、魚介類、野菜、果物など、日常摂取する食品に広く含まれています。カリウムの摂取は食事組成によるところが大きく、通常の食生活を営んでいる限り、カリウムの欠乏や過剰は起こらないといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
平成17年及び18年国民健康・栄養調査における日本人成人のカリウム摂取量の中央値は、男性 2,384mg/日、女性 2,215mg/日であり、この値はカリウム平衡を維持するのに十分な摂取量であると考えられたので、目安量を男性で2,500mg/日と設定し、女性は、男性とのエネルギー摂取量の違いを考慮して、2,000mg/日と設定しました。
高血圧を中心とした生活習慣病の一次予防を積極的に進める観点から、目標量を設定しましたが、日本人の摂取量の中央値を考慮すると実現困難な値であると考えられています。

平成20年の国民健康・栄養調査によるとカリウムの摂取量は、男性が平均2,374mg/日、女性が平均2,210mg/日と報告されており、目安量に近い値でカリウム平衡を維持するのには十分な量であるといわれています


経口的に摂取されたカリウムは、小腸で吸収され、通常腎臓から尿として排泄されます。腎臓がカリウム平衡を制御しているので、摂取量が多いか少ないかは、あまり反映されないといわれており、さらに腎臓がカリウムの恒常性を維持していく範囲は、ナトリウムほどには大きくないといわれています。
マグネシウム
マグネシウムはすべての細胞や骨に広く分布しており、細胞内で核の三次元構造の維持、膜電位の維持、物質の取込みやエネルギー代謝などの基本的な役割に関与しているといわれています。
生体中のマグネシウムの中で血漿中のマグネシウムは、比較的厳密に一定量に保たれているといわれており、腎臓の糸球体でろ過を受けないアルブミンなどの高分子タンパク質と結合したものと低分子化合物と結合したもの、及びイオン化したものとして存在し、この中で生理活性を持つのはイオン化したマグネシウムであると考えられています。

食品中では、加工していない細胞を丸ごと食べる食品中に100gあたり20~30mgのマグネシウムが含まれているといわれています。また、海水中にはナトリウムの10分の1程度のマグネシウムが存在するので、魚介類はマグネシウム含量が高いといわれています。マグネシウムは制酸剤として胃腸薬に配合されたり、緩下薬などに用いられるほか、腹腔内のX線撮影のときなどに浣腸瀉下薬として使用されています。
マグネシウムの摂取量が不足している場合は、腎臓による調節機構が発動し尿中排泄が低下して欠乏を防止するので、急性の欠乏症状は無いといわれています。過剰摂取の場合は消化管での吸収抑制や尿中への排泄亢進などの調節機構が発動するので下痢や軟便以外は稀であるといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
日本人を対象とした研究を重視して、4.5mg/kg体重/日を成人の体重当たりの推定平均必要量とし、変動係数を10%と見込んで、推定平均必要量に1.2を乗じた数値を推奨量と設定しています。

平成20年の国民健康・栄養調査によるとマグネシウムの摂取量は、男性が平均258mg/日、女性が平均231mg/日と報告されており、上記の推定平均必要量に近い量を摂取している結果を示しています。


経口摂取されたマグネシウムは消化管で吸収されますが、過剰量が摂取されると吸収が抑制されすみやかに糞便(下痢便、軟便)として排泄されます。また吸収された過剰量のマグネシウムはすみやかに尿として排泄されるといわれています。
カルシウム
カルシウムは体内に約1kg存在し、その99%が骨及び歯に存在しています。さらに、骨ではリン酸とともにヒドロキシアパタイト結晶として骨の間質を形成します。 骨重量の40%がカルシウムやリンなどの骨ミネラルとなり、骨中のカルシウムの約1%は自由に交換できるプールとして存在し、細胞外液のカルシウム量を調節しています。このように骨は体格を保持する機械的な働きに加えて、カルシウムの大きな貯蔵庫としての役割を果たしてします。
カルシウムは、神経筋興奮、血液凝固、生理活性物質分泌、酵素反応、ホルモンや神経伝達物質の放出反応などの生理学的、生化学的に重要な多くの生体機能の調節を行っており、これらの機能を正常に行うために血中濃度は厳密に保たれています。
血漿カルシウムの極端な減少は、痙攣を起こし、また著しい増加が、筋肉の麻痺や昏睡を起こすといわれており、副甲状腺ホルモン(PTH)、カルシトニンなどのホルモンやビタミンDの作用でカルシウムを一定に保つ調節機構が発達しています。

カルシウムは、あらゆる食品に含まれています。しかしながら、その摂取量は食事組成によるところが大きく、現在の食生活では摂取量が不足しているといわれています。 長期にわたりカルシウムが不足すると、骨粗鬆症や高血圧、動脈硬化などの生活習慣病の発症リスクが高まり、また、過剰になると泌尿器系結石や他のミネラルの吸収抑制などが発生すると考えられています。カルシウムは、各年代毎に必要量または推奨量を維持し、中高年以降も摂取量が低下することのないように維持していくことが大切であるといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
体内カルシウム蓄積量、尿中排泄量、経皮的損失量と見かけのカルシウム吸収率を用いて推定平均必要量が設定され、その必要量の個人間変動に関する変動係数を考慮して推奨量を設定しています。カルシウムの過剰摂取によって起こる障害として、泌尿器系結石、ミルクアルカリ症候群や他のミネラルの吸収抑制などが知られていることから、耐容上限量が設定されています。

平成20年の国民健康・栄養調査によるとカルシウムの摂取量は、通常の食品から、男性が平均520mg/日、女性が平均492mg/日と報告されており、推定平均必要量よりも低い値となり、慢性的なカルシウム不足であるといわれています。

経口摂取したカルシウムは消化管で吸収されますが、吸収効率は食品の形態により異なり、牛乳など乳製品の効率が高いといわれています。吸収されたカルシウムは血液を経由し、腎臓から尿に排泄されます。血清カルシウムの濃度は一定に調節されていて、カルシウムが十分に摂取されない場合には、骨に蓄えられているカルシウムで補うといわれています。
リン
リンは、地球表層の地殻に10番目に多く含まれ、生体を構成する元素としては、炭素、窒素、カルシウムに次いで4番目に多く、約1%含まれています。リンはすべての生物にとって必須の元素であり、遺伝、細胞の成長と分化、エネルギー運搬、神経・筋機能など広範な役割を担っています。
リンは、リン酸塩として使用されることが多く、特に加工食品などの食品添加物として使用されています。食品添加物として使用基準が設定されてるものとしては、強化剤のグリセロリン酸カルシウムや酸性ピロリン酸カルシウム、糊料のでん粉リン酸エステルカルシウムがあり、使用基準の設定のないものとしては強化剤のピロリン酸第一鉄が知られています。

リンは、体内の生理機能の主役的な役割を果たしていて、カルシウムと結合して骨格などの硬組織を形成しています。また、あらゆる細胞中でエネルギー代謝に係る反応に関与しています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
日常食から摂取するリンの量は調理による損失を考慮しても不足になることは無く、むしろ食品添加物として各種リン酸塩が加工食品に広く用いられている関係で、現在ではリンの摂取過多が問題となっています。その他、研究データなどが不足している関係で、平成17年及び18年国民健康・栄養調査の摂取量の中央値が目安量に設定されています。
リンの摂取量に応じて血清無機リンが上昇することが知られており、リンの摂取に対しての性別、年齢や骨代謝への影響を考慮して耐容上限量が設定されています。

平成20年の国民健康・栄養調査によるとリンの摂取量は、男性が平均1,051mg/日、女性が平均906mg/日と報告されており、上記の推定平均必要量を充たす結果が示されています。

経口摂取されたリンは消化管で60~70%が吸収され、副甲状腺ホルモンの働きにより血清中リン濃度と尿中リン排泄量が調節されているといわれています。
セレン
セレンは、常温で赤褐色から暗灰色の固体で、銅やスクラップの精錬に伴って生産されています。セレンは光を受けると電気を流す性質があるため、コピー機の感光ドラムや太陽電池に使われています。また、ガラスや陶磁器などの赤、ピンク、橙黄色の着色料や顔料、ガラスに含まれる不純物の色を吸収する消色剤、合金の添加剤として用いられるほか、セレンが欠乏している地域の土壌改良剤にも使われています。

セレンは微量必須元素であり、過酸化水素や遊離過酸化物を還元する酵素を構成する物質で、その摂取量が不足しても過剰でも人体に障害を生じるといわれ、必須元素としての摂取範囲が狭いこともあり食事による摂取基準が設けられています。セレンの欠乏が原因と疑われる疾患として中国東北部の克山病(心筋障害の一種)や、北シベリアや中国の北部では、カシン・ベック病(地方病性変形性骨軟骨関節症)が報告されています。その一方、経口または吸入経路でセレンの過剰暴露による中毒症状も報告され、影響としてはうつ状態、皮膚炎、胃腸障害、呼気のニンニク臭、脱毛と爪の脱落、運動失調、呼吸困難、その他神経症状などがみられるといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
セレンは含セレンタンパク質の形態で生理機能を発現しているといわれています。中国におけるセレン欠乏地域での研究結果から、推定平均必要量が設定され、変動係数を考慮した推奨量が設定されています。セレンの過剰摂取によるセレン中毒の報告があることを考慮して、耐容上限量が設定されています。

日本人のセレン摂取量は平均で約100µg/日で、食事からセレンを十分に摂取しているといわれています。

体内に摂取されたセレンは、その多くが尿中に排泄され、一部は糞便や呼気中に排泄されます。
ヨウ素
ヨウ素は体内に15~20mg存在し、そのうち70~80%は甲状腺に含まれます。甲状腺ホルモン(トリヨードチロニン、モノヨードチロキシン、チロキシンなど)の構成要素として、 たんぱく質の合成やエネルギー代謝、交感神経の感受性に関与します。 たんぱく質の合成への関わりから、皮膚や髪を健康で美しく保つ働きもあります。また発育の促進や基礎代謝の向上とも関係します。

生物界におけるヨウ素の分布として陸生の植物は一般にヨウ素含有量が低く、これに対して海産植物では高い濃度を示しており、海水濃度からすると500~60000倍の濃縮を行っていると考えられています。脊椎動物だけが甲状腺を発達させたことがヨウ素の代謝に大きく関わっているといわれています。
わが国は昔から海藻類を良く摂取する食習慣があり、欧米諸国とは異なったヨウ素摂取状況があり、欧米人でヨウ素過剰が発生するレベルでも日本人では耐性があり中毒が発現しないといわれています。 ヨウ素は欠乏すると甲状腺腫(甲状腺がはれる病気)を引き起こし、また取りすぎても、甲状腺腫や甲状腺機能障害を引き起こします。海草や魚介類に多く含まれるため、 それらを多くとる日本では世界の傾向とは逆に不足はまれです。 海からはなれた内陸地帯などでは、 欠乏症がしばしば問題となるといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
甲状腺へのヨウ素蓄積の研究結果においてヨウ素の摂取不足による健康障害の重篤さを考慮して、推定平均必要量が設定されていますが、海藻類に多く含まれているので、摂取不足は起こらないと考えられています。日本人は海藻類から間欠的にヨウ素を過剰摂取することが多いが、ヨウ素を連続的に過剰摂取した場合に健康障害などが発現する可能性があることを考慮して耐容上限量が設定されています。

日本人のヨウ素摂取量は、昆布製品などの海藻類をあまり含まない食事からの1日あたり500µg未満を基本として、間欠的に摂取する海藻類を多く含む食事分を加えて、1日当たりの平均値として約1500µgになると推定されています。

ヨウ素は腸管での吸収率が高く、摂取量とほぼ同量が吸収され、そのほとんどが尿中に排泄されます。
クロム
クロムは、銀白色の光沢のある金属で、錆びにくい特性を利用して、特殊鋼(耐熱性や錆びにくさなどの特性を加えた鋼)などに利用されたり、メッキに使われています。 鉄に12%以上のクロムを含む合金がステンレスと呼ばれています。クロムを含むことによってステンレスの表面には硬い酸化被膜がつくられ、その表面に傷がついても、表面に出てきたクロムが周囲の酸素と結びついて再び被膜をつくり、錆びを防ぐ働きをしているといわれています。クロムには多くの種類の化合物があり、イオンの価数が3価のものを3価クロム化合物、クロムの酸化状態がより進んだ6価のものを6価クロム化合物といい、その有害性は6価クロム化合物が高いといわれています。

クロムは、生体内で糖代謝、脂質代謝、タンパク質代謝、結合組織代謝に関係する微量元素で、産業職場での曝露以外はおもに食品から供給され、哺乳動物にとって必要不可欠な微量栄養素ですが過剰摂取により健康障害を起こすといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
クロム摂取量の研究結果で摂取エネルギー当たりの必要量が示されており、この値に対して身体活動レベルⅡの性及び年齢階級別推定エネルギー必要量を用いて算出した推定平均必要量が設定されています。さらに、この値に変動係数を考慮して、推奨量が設定されています。

クロムの1日摂取量調査の結果で、2004年~2006年の全国平均が37.4µg/dayと報告されていますので、通常の食生活でクロムの摂取不足などは起こらないと考えられています。クロムの摂取量と吸収率の研究においては、負の関係があり、クロム摂取量が1日あたり10µgでは約2%、40µgを超えると0.5%の吸収率となるとの報告もあり、吸収の調節が行われていると考えられています。

クロムはおもに小腸で吸収されますが、その吸収率は化学形態によって異なり、6価クロム化合物の方が吸収率が高く、さらに細胞膜を透過しやすいので体内に吸収されやすいといわれています。吸収された6価クロム化合物は細胞内で直ちに3価へ還元され、肝臓や腎臓に運搬されて尿から排泄されるといわれています。
モリブデン
モリブデンは、常温で銀白色の金属です。酸や熱に強く、空気中ではすぐに酸化されて表面に酸化皮膜をつくるため、ステンレスや低合金鋼の原料として使われています。また、モリブデンを加えた金属は大きな強度が得られることから、自動車やパイプラインに用いられる特殊鋼の原料として用いられ、また、モリブデン酸ナトリウムは、不凍液の原料、顔料用の発色剤、染料媒染剤、金属表面処理剤、防錆び剤の原料などとして使われています。
モリブデンは、動物や植物の必須微量元素であるため、農業用微量肥料や飼料添加物としても用いられています。

モリブデンは必須微量元素であり、生体内の酵素例えば核酸の代謝に関与しているキサンチンオキシダーゼやアミノ酸の分解に関与しているアルデヒドオキシダーゼなど重要な酵素の活性中心として作用しています。モリブデンは他の重金属に比べて比較的毒性は弱く、蓄積などによる弊害も報告されていません。水道法で0.07mg/L以下と規制されていますが、水道水、河川や地下水からはこれらの目標値や指針値を超える濃度のモリブデンは検出されておらず、飲み水を取込むことによる健康への影響は小さいと考えられています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
モリブデン摂取の出納実験の結果から、推定平均必要量及び推奨量が設定されています。穀物や豆類はモリブデンを高濃度に含有していますが、健康障害などは報告されておりません。しかしながらモリブデン過剰摂取における有害性の報告を考慮して耐容上限量が設定されています。

モリブデンは穀物や豆類に豊富に含まれており、平均的に1日あたり225µg、大豆製品を豊富に含む献立の場合に1日あたり300µgのモリブデンを摂取しているといわれています。

経口摂取されたモリブデンは、消化管から吸収され血液を介して肝臓、腎臓、骨に分布します。吸収されたモリブデンの大部分は腎臓から尿中に排泄されます。
マンガン
マンガンは、地球上には比較的豊富に存在していて、純粋な金属マンガンは銀白色をしており、鉄よりも硬いものの、もろい金属といわれています。鉄や銅などにマンガンを加えると大きな強度が得られるため、強度が要求される機械部品用の合金の原料に使われます。
マンガンの化合物には、二酸化マンガンや過マンガン酸カリウムなどがあります。二酸化マンガンはマンガン乾電池の電極として使われ、その他に磁性材料であるフェライトの原料、花火やマッチの原料、ガラスの着色などにも使用されています。過マンガン酸カリウムは強い酸化作用があり、酸化剤及び繊維や油脂の漂白に使われています。

マンガンは、人及び動植物に対する必須微量元素であり、ミトコンドリアの抗酸化酵素(SOD)、脱炭酸酵素、肝臓アルギナーゼなどの酵素の構成元素として生体内に存在しています。 マンガンは、自然界に存在するため、環境中から検出されています。水道浄水からは水道水質基準を超える濃度のマンガンは検出されていませんが、原水、河川や地下水から水道水質基準や水質監視項目の指針値を超過する濃度が一部の地域で検出されています。これらの水を長期間飲用するような場合を除いて、飲み水などから取込むことによる人体への影響は小さいといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
日本人におけるマンガン摂取量の報告から、目安量が設定されていますが、通常の食生活ではマンガン欠乏は起こらないと考えられています。穀類、豆類、木の実などを中心とした食事とマンガン摂取量の研究において、マンガンの最大摂取量は11mg/日と推定されています。また、マンガンの投与研究で血中マンガン濃度の有意な上昇や有害性が出現したとの報告を考慮して耐容上限量が設定されています。

日本人のマンガン推定摂取量は、1999年の健康・栄養情報研究会の報告より、30~70歳男性で1日あたり2,800~4,120µg、女性で1日あたり3,240~3,560µgと報告されており、目安量に近い摂取量であることが確認されています。

経口摂取したマンガンは、消化管から吸収され、胆汁を経由して糞便中に排泄されます。
鉄は、炭素、ケイ素、アルミニウムに次いで地殻中に4番目に豊富に存在しています。金属鉄は数種の岩石に存在し、また地球の中心核の基本的な構成要素となっています。大部分の岩石や土壌中で化合して結晶構造をとり、2価の第一鉄イオン(Fe2+)または3価の第二鉄イオン(Fe3+)として存在しています。

鉄は細菌や真菌、植物を問わず、あらゆる生物に必須であるといわれ、ヘモグロビンの構成成分として用いられています。ヘモグロビンは体内の細胞へ酸素を運ぶ重要な役目を果たしているので、必要量以上を貯蔵鉄として体内に貯蔵しています。鉄の摂取は主に食物からですが、その食物の種類で吸収の度合いが異なるといわれています。
鉄欠乏は、世界的にみても、最もよくみられる栄養問題であり、また貧血の原因であるともいわれています。人の1日の鉄必要は数mgと非常に少ないですが、鉄の消費が吸収を上回る状態が長期間続くような状態(食物中からの鉄摂取不足、鉄の喪失または吸収障害)により、鉄欠乏となるといわれています。過剰摂取については、もっぱら治療用の鉄剤によるもので、自然界に存在する鉄や治療用以外の鉄中毒は、ほとんどみられないといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
鉄の推定平均必要量及び推奨量は、出納試験や要因加算法などを用いて設定されています。女性の場合、月経の有無で推定平均必要量及び推奨量が異なります。なお、過多月経については除外して策定されています。 無機鉄の飲用など鉄の長期摂取に伴う慢性的な鉄沈着症が報告されていることを考慮して許容上限量が設定されています。

平成20年の国民健康・栄養調査によると鉄の摂取量は、男性が平均8.1mg/日、女性が平均7.5mg/日と報告されており、上記の推定平均必要量及び推奨量を充たす結果が示されています。

経口摂取された鉄の消化管での吸収は極めて僅かであって、食物中の鉄の大部分はそのまま糞便中に排泄されます。大量出血などで鉄が要求される場合には、まず貯蔵鉄が動員され、それが著しく減少した後にはじめて吸収が盛んになるといわれています。
銅は、赤褐色の延性と展性に富んだ金属です。環境中にみられる銅化合物は、通常2価ですが金属や1価または3価の状態でも存在しています。銅は、肥料、殺菌剤、殺真菌剤及び調理器具などにも使用されています。 生体において銅は、約10種類の銅依存性酵素の活性中心に結合して、エネルギー生成や鉄の代謝、神経伝達物質の産生、活性酸素の除去など生物の基本的な機能に関与しています。

銅は食品や飲料水から摂取されますが、通常の生活においては健康への影響は小さいと考えられています。欠乏の原因は、摂取不足、吸収不良、銅損失の増加などで、結果として鉄投与に反応しない貧血、骨異常、成長障害、心血管系や神経系の異常などが起こると考えられています。細胞内に銅が過剰に存在すると毒性を示しますが、体内の銅はコントロールされているといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年版)」を策定しました。
銅の食事摂取基準は、アメリカ/カナダの食事摂取基準を参考に策定されています。安定化同位元素を用いた信頼性の高い研究の結果から、推定平均必要量及び推奨量が設定されています。銅の過剰摂取における有害性の報告などを考慮して耐容上限量が設定されています。

平成20年の国民健康・栄養調査によると鉄の摂取量は、男性が平均1.26mg/日、女性が平均1.08mg/日と報告されており、上記の推定平均必要量及び推奨量を充たす結果が示されています。

経口摂取された銅は、消化管で吸収され、血清中の輸送タンパクと結合して肝臓に必要量が貯蔵されます。過剰の銅は、大部分が再吸収されない形態となって胆汁へ流出し、糞便中へ排泄されます。また一部が腎臓を介して尿中に排泄されるといわれています。
亜鉛
亜鉛は、非鉄金属の中では銅、アルミニウムについで多く生産されている物質です。亜鉛の化合物である塩化亜鉛は、亜鉛メッキの加工工程で皮膜を形成するために使われることが多いほか、染料や農薬などの合成原料、マンガン乾電池の電解液、活性炭の活性化剤などに使われています。また、硫酸亜鉛は農作物への薬害や土壌のアルカリ化を防ぐために農薬や肥料に混合されたり、ミネラル分を強化する目的で家畜用飼料に添加されることがあるといわれています。同様な目的で、育児やペット用の粉ミルクにも含まれている製品があります。

亜鉛は人や生物にとって必須元素であり、人の推奨摂取量は1日あたり3~15mgです。亜鉛を体内に取込む可能性は、食物からの摂取が多いと考えられていますが、健康への影響は小さいといわれています。 亜鉛は、タンパク質や核酸の代謝にかかわって、正常な生命活動を維持するのに必要な栄養素で、欠乏すると味覚障害、皮膚や粘膜への障害などが起こりやすくなり、一方、過剰な亜鉛摂取は、嘔吐や下痢を引き起こし、さらに必須元素のひとつである「銅」の吸収を妨げるおそれがあるといわれています。
厚生労働省は、健康な個人または集団を対象に、国民の健康の維持・増進、生活習慣病の予防を目的とし、エネルギー及び各栄養素の摂取量の基準を示すものとして「日本人の食事摂取基準(2010年度版)」を策定しました。
亜鉛の成人の推定平均必要量及び推奨量は、アメリカ/カナダの食事摂取基準やその他の研究結果を参考に策定されました。亜鉛自体の毒性は極めて低いと考えられていますが、多量の亜鉛を継続的に摂取することで銅の吸収阻害による銅欠乏が発現するとの報告などを考慮して耐容上限量が設定されています。

平成20年の国民健康・栄養調査によると亜鉛の摂取量は、男性が平均8.8mg/日、女性が平均7.3mg/日と報告されており、推定平均必要量よりも摂取量が少ない結果が示されており、亜鉛が摂取不足であると考えられています。

体内に取込まれた亜鉛は血液中に入り、アルブミンやグロブリンと呼ばれるタンパク質と結合して体内の組織に運ばれます。体内で不要となった亜鉛は、大部分は糞便中に排泄されるほか、一部は汗や尿に含まれて排泄されます




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