ADHDは中枢神経系の機能異常が原因ではないかと考えられていますが原因は明らかになっていません。しかし、米国では栄養学的分析を行うことも注目されています。当研究所ではミネラルという側面から検証し、栄養アドバイスにより心身の成長・発育の支援が大切ではないかと考えています。
ADHDは、1902年に初めて特定の病気と認められました。その定義に関してはいくつかの変遷があり、1930年代から1950年代には、ADHD症状を有する子ども達に脳障害が生じている証拠がないにも関わらず微細脳機能障害と定義されてしまったり、また、1950年代後半では活動亢進 (過度に活動的) がADHDの定義に使用されるようになりました。そして、1970年代では多動性障害症に注意欠陥が考慮され、1980年代以降、注意欠陥や活動亢進がその定義として考慮されるようになっています。現在では注意欠陥多動性障害(ADHD)や多動症候群と呼ばれています。
ADHDの基本的症状はこのような3つの特徴があり、厚生労働省では「ADHDとは、年齢あるいは発達に不釣り合いな注意力、及び/又は衝動性、多動性を特徴とする行動の障害で、社会的な活動や学業の機能に支障をきたすものである。また、7歳以前に現れ、その状態が継続し、中枢神経系に何らかの要因による機能不全があると推定される。」と定義されています。この厚生労働省の定義は、アメリカ精神医学会によるDSM-IV(精神疾患の診断・統計マニュアル:第4版)を参考にしたものです。
不注意(注意力や集中力の欠如)
- 話を最後まで聞くことが困難。
- 気が散りやすい。
- 物をなくすことが多い。
- やるべきことに最後まで取り組むことが困難。など
多動性
- じっと座っていられない。
- 相手の立場やその場の状況を考えずに話す。
- 落ち着きがなく、じっとしていることができない。
- ふさわしくない場所で走り回ったり、よじ登ってしまう。など
衝動性 (感情的・衝動的な行動)
- 順番を待つのが難しい。
- 思いついた行動を唐突にとる。
- 怒りっぽくなり、反抗的な態度や攻撃的な行動をとる。
- 情緒面で不安定になる。など
ADHDは注意や行動のコントロールを行う中枢神経系の機能異常が原因ではないかと考えられていますが、詳しい原因は明らかになっていません。しかし、このような機能をつかさどる脳の前頭葉の神経細胞のドーパミンレセプターやこれに関係する遺伝子の異常を指摘する報告が多いようです。また、遺伝的要因や環境要因の関与も報告されており、これらが密接にかかわることも原因ではないかと考えられています。
ADHDの場合、自閉症、特に高機能自閉症やアスペルガー障害(知的障害がない自閉症)あるいは学習障害を伴うことが数多くあります。単独のADHDは衝動的なトラブルはあるものの対人関係などは良好であるのに対し、高機能自閉症やアスペルガー障害を伴う場合は対人的に孤立し、クラスメートや他人の些細な働きかけで激昂して暴れるといったトラブルもあります。また、ADHDは学習障害を伴うことが数多くありますが、かならずしも学習障害を伴うわけではありません。学習障害を伴わないADHDは多動衝動をコントロールしていれば教室において普通の生徒として評価は可能とされています(ただし、学習面で計算などの単純作業で障害が原因で健常児と比較しミスが多くなる傾向はあるとされています)。
ADHDは食事や栄養、ミネラルとこのような関係が指摘されています。
ここに記載している重金属や食事について関連性のある報告もある一方、否定している報告もあり、すべてのADHDをお持ちのお客様に対しての原因もしくは改善策ではありませんのでご注意ください。
砂糖(清涼飲料水)の摂取量との関係
2006年、ノルウェー(オスロ)の15-6歳の学生5000人以上を対象とした大規模調査で砂糖の多い清涼飲料水の摂取量と多動や精神的悩み、学生の行動といった精神的な問題に強い相関があったとの報告があります。
ADHDの砂糖原因説は1970年代に指摘され一部の専門家に強く支持されるようになったようです。その後、検証実験などが行われ、ADHDと砂糖の関連性は見出されなかった報告が多く、米国立精神保健研究所(NIMH)や米国小児科学会(AAP)は、例外は一部あるかもしれないがADHDの助けにはならないとの見解を示しています。
食品添加物との関係
2007年9月、サウサンプトン大学のグループがADHDの症状に関係がある多動性と食品添加物の関係について報告し、それがLancet誌に記載されました。これは英国食品基準庁(FSA)がバックアップして行われた研究で、その解析方法にニ重盲検ランダム化試験を取り入れ、プラセボ効果や観察者バイアスの影響をなくした精度・確度の高い方法で行われています。これ以前にも食品添加物とADHDの関係は様々な研究機関で発表されていましたが、今回、ニ重盲検ランダム化試験を取り入れた初めての発表であったため、その反響はかなり大きかったようです。
この研究は、153人の3歳児と144人に8-9歳児に保存料・着色料(5種類の混合A及びB)を含んだジュースを飲ませた結果、3歳児のグループはAのジュースと8-9歳児のグループはAとBのジュースで多動傾向が見られたとの内容です。使用された添加物はAジュースが食用黄色4号、 食用赤色102号、食用黄色5号、Carmoisine及び 安息香酸ナトリウムでBジュースが食用黄色5号、Carmoisine、Quinoline yellow、Allura Red AC及び安息香酸ナトリウムです。但し、英字の添加物は日本未許可となっています。また、この研究は対象人数が少ないことや、親や教師がその行動を報告すること、どの添加物が影響を与えているかわからないなどの理由により、その関連性に疑いがあるとの意見もあります。
この発表を受け、英国食品基準庁は2009年中にメーカーが自主規制するように勧告しています。
ミネラルとの関係
鉛・銅
ADHDの原因には内因性と外因性のものがあり、外因性要因としては家族、家庭や学校などの環境が原因の場合がある。また、内因性要因の一つに体内に過剰に蓄積している有害ミネラルがあげられています。
子供達の行動に有害金属が影響を及ぼしていることは前から知られており、1987年5月号のLancetに掲載された論文で、英国の生徒800人を対象とした研究の結果、血液中の鉛が高いほど、子供達の学習速度が低下していることが報告されています。更に、鉛に関しては安全なレベルがないことも明らかにされ、過剰の鉛は精神遅延やADHDと関係があると指摘されています。
アリゾナ州のアナリティカル・リサーチ・ラボラトリーズは、これまでに3万人を越える子供達を対象に毛髪ミネラル検査を実施し、毛髪中の銅レベルの異常がADHDの子供達に共通して認められたとしています。銅は母体から胎盤を通って胎児に移行し亜鉛の代謝を障害します。そして、甲状腺機能に影響を与え、脳の活動を刺激する神経伝達物質である活性アミン類を増やします。
銅は、動物的な反応を支配している古い脳(間脳)を刺激しています。また、新しい脳(皮質)は動物の本能的反応を制御しており、より複雑な思考や高度な情動をもコントロールしています。したがって、銅のバランスの崩れは、我々の動物本能的な反応を呼び起こすことにもなりかねないことや、銅の影響として、多動や気分の動揺、不安、パニック症状、憂鬱症、及び反社会的行動が報告されていることからもADHDに銅が関与しているかもしれません。
米国環境庁(EPA)は、400件以上の研究をレビューした後、「毛髪ミネラル検査」が過剰の有害金属を検出する信頼性の高い手段であると結論付けています。但し、「毛髪ミネラル検査」は毛髪中の金属量を測定しているため、身体全体の蓄積量を測定しているのではないこと、更に、蓄積した有害ミネラルを体内から排出するには、数ヶ月間にわたる矯正治療が必要であることも記憶しておく必要があるとも指摘しています。
鉛
2006年12月、米国ウィスコンシン大学ミルウォーキー校の研究グループがADHDとタバコや鉛暴露の影響についての報告し、それがEnviron Health Perspect誌に記載されました。
この研究は、1999年から2002年に行われた国民栄養調査から得られた4歳から15歳の4704人のデータを解析しています。その結果、344人(8.2%:全米の子供で180万人相当)が親から子供がADHDであるとの報告を受け、154人(4.4%:全米で子供で2万人相当)が薬物治療を受けていること、出生前にタバコに暴露されていた子供たちは暴露されなかった子供に比較しADHDのリスクが2.5倍であったこと、性別での有意差は認められなかったが出生前にタバコに暴露されている場合、女児ではリスクが4.6倍、男児では2.1倍であったこと、出生後にタバコに暴露してもADHDとの関連性は認められなかったこと、また、血中鉛濃度が2.0μg/dlより高い子供は血中鉛濃度が0.8μg/dl未満の子供に比較しADHDのリスクが4.1倍であることがわかりました。
他にも米国で同様の報告が2009年12月のPediatrics誌にも記載されています。
また、ADHDと喫煙の関係性は日本においても発表されておりADHDの子供をもつ母親の喫煙率が非常に高いことや父親の喫煙率も一般的な喫煙率よりも高いとの報告もあります。
鉄
2004年6月、パリ病院の研究グループがADHDと鉄欠乏の状況についての報告し、それがArchives of Pediatric and Adolescent Medicine誌に記載されました。
この研究グループは、鉄が脳内でフェリチンと結合し血清フェリチン値は鉄欠乏で減少、鉄補給で増加することや、それに伴い血清フェリチン値の低い子どもにおいて中枢神経系の発達に影響し精神遅滞や行動異常につながるとの報告からADHD児を対象に行われた研究です。
この研究では、ADHD群53人(4-14歳)と対照群27人(4-14歳)の血清フェリチン値やヘモグロビン値、ヘマトリックス値、鉄濃度を調査しました。その結果、ADHD児の血清フェリチン値は対照群に比較して低い値を示し(ADHD群:23 ± 13 ng/mL;対照群:44 ± 22 ng/mL)、ADHD群の84%が血清フェチリン値の異常が認められました。それに対し対照群は18%しか認められませんでした。また、3つの尺度からADHDの重症度を表すCPRスコアにおいて、認知・多動の2つの尺度は血清フェチリン値と相関したと報告しています。
ADHDの原因のひとつと考えられているドーパミンの機能不全が上げられます。この研究グループは鉄がドーパミンの補酵素であり鉄欠乏がドーパミン依存性作用に影響するとの報告や、鉄欠乏は認識機能障害や学習障害、精神運動の不安定性に影響を及ぼす原因としても考えられてきていることから、鉄欠乏(血清フェリチン値の低値)と中枢ドーパミンの機能不全との関係がADHDの兆候につながる可能性をさらに検討する必要があるとの指摘をするとともに、鉄の補給がADHD児の第一治療選択肢となりうるのではないかとしています。
ADHDにおける、鉄の欠乏や神経伝達物質のドーパミンやノルアドレナリンの生合成における鉄の関与についての報告は多数あり、ADHD群と血清フェチリン値は有意な差は見られないとの報告や、ADHD群の血清フェチリン値は有意に低くかつ磁気共鳴画像(MRI)装置を用いて脳内鉄を推定したところADHD群で左右の視床の脳内鉄は有意に低いとの報告もあります。
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